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FEATURE 特集記事

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Twitterでトレンド入り 調布FM「アニソン特番」人気の舞台裏

2020.03.09

 

東京都西部の都市・調布(ちょうふ)市をエリアとして放送するコミュニティFM『調布FM』で不定期に放送される大型特番「アニソン(アニメソング)特番」が、Twitterを中心に大きな人気を集めています。

放送のたびにTwitterで日本のトレンドにハッシュタグ「調布FM」がランクインするほど。調布市周辺で聴取できるFM放送(83.8MHz)のほか、インターネットによる同時配信を経由して全世界からリスナーが集まっていることも大きな特徴です。

本来、放送エリアの市町村のみをターゲットとするコミュニティFMの番組がどうしてこんなに人気を集めているのか──。その人気の舞台裏を取材しました。

 

きっかけは「東日本大震災」

京王線・調布駅から歩いてすぐの場所にある「調布市文化会館たづくり」の3階にスタジオを構える調布FM。日頃から地元調布に根ざした地域密着の情報を発信しています。

「アニソン特番」を立ち上げたのは、同局ディレクターの袴田荘之介さん。自身のアニメ好きが高じて…と思いきや、立ち上げのきっかけは意外なところにありました。

 

 

袴田さん:番組立ち上げのきっかけのひとつは、2011年の東日本大震災でした。調布市では計画停電が実施され、調布FMでもその情報を放送したところ、リスナーの方からお褒めの言葉をいただきました。やはり地元の放送局として必要な情報をしっかり届けていかなければと思い、同年にインターネットによる同時放送をスタートさせました。

 

──インターネットを通じた放送ならば、調布市内に限らず全国どこでも放送が聴取できますね。

袴田さん:調布市内に(物理的に)いる方のみではなく、調布市に自宅があり、かつ日中は都心で働いていているような方にも情報を届けなければいけない。地元の様子がどうなっているか、(都心から地元へ帰る前に)知りたいと思うし、そういった方へ伝えることでより情報面でカバーできると思ったのです。

 

──地元・調布の放送をどこにいても聴けるというのは、かなり大きな反響があったのではないでしょうか?

袴田さん:ところが、インターネット放送を実施しても全然調布FMは話題にあがらなかったんです。日頃から調布FMをもっと多くの方に聞いていただくため、特別番組を企画したのです。

 

──アニソンをテーマに選んだ理由は?

袴田さん:みなさんが簡単に聞けて盛り上がれるもの、として「アニソン」というアイデアが挙がりました。最初は本当に気軽な理由からだったんです。

 

80通から6,000通へ。増えていったリクエスト

インターネット配信を通じ、調布市のみならず全国各地にリスナーを抱える 「調布FM アニソン特番」。毎回番組に寄せられるリクエストの数は、ラジオ局のなかでも突出した多さです。ここに至るまでの道のりは──。

 

袴田さん:2012年お正月の初回放送時、80通のリクエストが届きました。いまにして思えば全然少ないと思うんですが、事前広報をほとんどしていない状態でも「アニソンをやれば、80通はメールが来るんだなぁ」と。

 

──80通は、ラジオ局のなかでもかなり多い数では?

袴田さん:リスナーの反応が見えるようになって嬉しかったのですが、放送後にネットの反応を見ていると「もうちょっとうまくやれるのではないか」と。スタッフのあいだでも「いまのままではダメだ」という声があがって、勉強を重ねてその年の夏にもういちど特番を放送しました。

 

──2回目以降の反応はいかがでしたか?

袴田さん:地元の大学に通うアニメ好きの人たちが喜んでくれて、リアルタイムにアニメをおいかけている人からメールが来るようになりました。こうした(最先端の)人たちに刺激を受けると、番組自体も自然とブラッシュアップするんですよね。2回目の放送では2,000通、いちいばん多い回では6,000通ものリクエストが届きました。

 

──6,000通! 大手局なみの数ですね!

袴田さん:リスナーさんが聞きたいと思う曲をちゃんと(リクエストとして)送ってもらって、僕らもそれにちゃんと応える。アニメ本編もちゃんと見直し、曲もちゃんと聞いてリクエストに応えていくということを地道にしていったことで、喜んでもらえる番組に成長したのではないかと思っています。

 

1年かけて楽曲ライブラリーを構築

 

いちどの放送にあたり、100曲以上のアニメソングを放送するという「アニソン特番」。音源の準備だけでもすさまじい手間が掛かりそうですが、スタジオ内に設置されたCDラックは意外にもコンパクトです。

 

──楽曲はどうやって準備しているのでしょうか?

袴田さん:アニソン特番にかぎらず、放送で利用する音源はすべてデータ化しているんです。放送時はスタジオに設置した端末からワンタッチで送り出せるようになっています。

 

──すごい!!

袴田さん:本番中に音源を(ラックに)探しに行く時間がもったいなくて。というのもあるし、いまわれわれの制作現場では、番組収録もすべて音声データの形でやりとりするんです。だったら(番組収録時に使用する楽曲も)全部データ化しちゃおう、と。社内で担当者を割り振って、1年かけて実現しました。

 

──番組制作の仕組みづくりから取り組んでいるんですね。

袴田さん:リクエストをもらったときに「その曲は(局に)ない」と言いたくなかったんですよね。リクエストに(確実に)応えるためにはどうすればいいか、を考えて準備を続けてきたことで、「調布FMにリクエストすれば、だいたい応えてくれるよ」と言ってもらえるところまでは来たかな、と思っています。たいがいのアニメソングならいけますよ!

 

──とはいえ、リリースされたすべての曲を準備するのは大変ですよね。リクエストに応えるため、他にはどんな工夫をしていますか?

袴田さん:いちどの放送でかけきれなかった曲から、次回分の選曲をしています。新しい曲を入れつつ、リクエストが届いたらそのつど差し替えていくんです。生放送のスタジオではソングリストの更新を専門に担当するスタッフが2名交代で詰めていて、リアルタイムでデータ更新を行っていきます。これを長く続けてきたおかげで、毎回リクエストされそうな曲がだいたい予想できるようになりました。

 

「フォローを忘れない」番組作りで心がけること

 

──これだけ万全な体制であらゆるアニメソングを網羅しているとなると、思い入れを語りたくなったりしませんか?

袴田さん:リスナーのみなさんが聞きたいのは僕らの語りじゃなくて、あくまで楽曲だと思うんです。余計なコメントをしている時間があったら、そのぶん1曲でも多く(のアニメソングを)届けたいというのが(番組としての)出発点なんです。だからトークは過不足なく簡潔にまとめて、すぐ次の曲に移ることを信条にしています。

 

──あくまでリスナーファーストなんですね。

袴田さん:「アニメ好き」とひとことで言っても、なかにはいろんな流派があります。年代だってそう。できるかぎり多くの人たちに楽しんでもらいたいですが、(ラジオ番組という性質上)どうしてもある層の人たちの要求に応えられない時間が出てきてしまう。それを最小限にとどめたいんです。

 

──自分の好みとは違う曲が流れたり、リクエストした曲がかからなかったり…。でもそれって、ラジオである以上仕方がない部分とも思いますが…

袴田さん:いちばんよくないのは、「ニーズに応えられていない人たちがいる」ということに気づかないで進んでしまうことだと思うんです。「自分は相手にされていない」と感じると、悲しいですよね。大事なのは「お待たせしました」「リクエストに応えきれなくてごめんなさい」と、きちんと伝えることだと思うんです。

さまざまな曲を網羅するアニソン特番ですが、特定の年代の楽曲を特集するときなど、「これから40代のみなさん向けの楽曲が続きますが、他の世代のみなさんはちょっとお待ちください」とアナウンスでフォローするようにしています。

 

あくまで「調布市をトレンドに載せる」のが目的

 

──聞いた話では、リスナーさんたちの熱量もかなりのものだとか。

袴田さん:そうなんです。「この番組を聞くために有給休暇を取りました」というメッセージをいただいたときは感動しましたね。「どうしても仕事の関係でリアルタイムに聞けないので、仕事を辞めてきます」なんて人も…

 

──番組がリスナーさんの人生にまで影響を及ぼしてしまうなんて!

袴田さん:番組を聞くために仕事を辞めるなんて、さすがにネタだとは思いますが(笑)調布FMは調布市が大株主になっている、いわゆる第三セクターの放送局なんですが、番組をきっかけに「調布市へふるさと納税しよう」と呼びかけてくれる人もいたようです。

 

──いまや調布FMのアニソン特番は、コミュニティFMはもとよりラジオ関係者からも非常に注目される存在です。ここまで来たら「アニメソング専門局」になってもいいのでは…?

袴田さん:調布FMは、あくまで地元の人のためにある放送局です。アニメソングと調布市は直接関係ないですし、アニメソングを局のメインストリームにしてはならないと思っています。

 

──袴田さんにとって、番組を続ける意義とは何なのでしょうか?

袴田さん:「調布」という文字がネットのトレンドに載るというメリットが一番大きいと思っています。番組内で呼びかけるハッシュタグも、(番組名ではなく)「#調布FM」にしています。あくまで、調布から話題を発信しているということが大事なんです。

 

──調布という街に興味を持ってもらうきっかけとしての「アニソン特番」なんですね。

袴田さん:ここまで人気が出たのも、地元の大学生たちが喜んでくれたから。その人たちがいてくれたからこそ、ここまで来れているんです。私たちは、地元・調布を離れては生きていけません。だからこそ、調布の名前があがって盛り上がってもらえる機会を増やしたいんです。ただアニメソングをかければいいという簡単なことではなくて、なぜ調布FMがアニソンを流すのか、その理由を考え続けていかなければいけないと思っています。

 

***

 

アニメファンのあいだは「聞く聖地」となるまでに人気を集める、調布FMの「アニソン特番」。 局内のアニメ好きのスタッフが「好きが高じて」立ち上げた番組だとばかり思っていましたが、取材を通じて、地域メディアとしての真摯な姿勢、そしてその背景にある「街に注目してもらわなければ」という強い危機感が伝わってきました。

 

大手局にくらべて弱い電波出力をカバーする目的から立ち上がったコミュニティFMのインターネット配信ですが、「離れた場所からもラジオという空間を通じて日本全国の『街』に集まれる」という、新たなラジオの魅力が浮かび上がってきました。

 

 

【調布FM 放送局データ】

所在地:東京都調布市小島町2丁目33番地1 調布市文化会館「たづくり」3階

放送地域:調布市・狛江市の全域、三鷹市・世田谷区・川崎市多摩区・稲城市・府中市・小金井市・武蔵野市の一部で受信可能

周波数/出力:83.8MHz 出力20W

公式サイト:http://www.chofu-fm.com/

公式Twitter:https://twitter.com/chofu_fm

 

 

(文 天谷窓大 / 編集 株式会社トランジットデザイン)

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