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FEATURE 特集記事

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表参道の激辛料理専門店『赤い壺』がテイクアウトを始めて見つけたこと

2020.10.18

新型コロナウイルスの感染拡大、またそれにともなう外出やオフィス勤務の自粛。こうした事態は飲食店業界に多大な打撃をいまなお与え続けています。飛沫感染を防止するため、アクリル板の設置や席の間引き、営業時間の短縮など、これまでの営業方法を根本から見直しての営業を迫られているのが現状です。

そんななかで、通常の店舗営業に加えてテイクアウト営業を始めるところも。厨房など、通常の店舗設備を有効活用できる一方で、店舗営業とは別の営業許可が必要であったり、その他食品衛生上の新たなルールを満たす必要があったりと、課題も多く存在するようです。

今回この記事では、店舗と並行しながらテイクアウトを新たに始めた飲食店のケースをご紹介。東京・表参道で激辛料理専門店『赤い壺』を経営する伊藤友美さんにお話を伺いました。
(ライター:天谷窓大)


表参道『赤い壺』オーナー・伊藤友美さん

テレビの激辛特集ではほぼ必ずといっていいほど登場する、激辛ファンの聖地とも呼ばれる同店では、どのようにテイクアウト営業と向き合ったのでしょうか──。

※記載の情報は2020年9月中旬現在のものです。
※食品衛生に関する判断基準は個々のケースによって変わりますので、必ず営業地域を管轄する保健所の指導を仰いでください。

 

店舗の人気メニューだった「鍋」をテイクアウトに


『赤い壺』店内

──既存の店舗に加え、新たにテイクアウト営業を始められた経緯を教えて下さい。

伊藤さん:
コロナ禍の影響でお客さんがいなくなっちゃって。ことし4月の売上は前年の97%減、5月も95%減でした。そんななか、お店を休まずに何かやれるものはないかと考えたら、テイクアウトかなと思ったんです。東京・京橋にあるお店の軒先を借りてキッチンカーでのテイクアウト販売を始め、さらにオンラインショップも立ち上げました。

 

──テイクアウト営業を始めるにあたって、どんな点が大変でしたか?

伊藤さん:
うちの店は鍋が人気メニューだったので、鍋のテイクアウトをしようと思ったんです。しかし肉をテイクアウトで販売するには新たに食肉製造の免許を取得しなければいけないことがわかって。本来ならば店で出しているものをそのままテイクアウトできるようにしたかったのですが…。

 

──肉などを生で提供する場合は、(お店は)食品加工場という扱いになるのですね。

伊藤さん:
はい。店舗で火を通して加工を施せば食肉製造の免許はいらないということだったので、レトルト形式で提供することにしました。スープも別袋にして、食べる時に入れて火をかけるだけ、という形にしました。


『赤い壺』のテイクアウト鍋セット

 

──レトルト加工は、どこか専門の工場に依頼したのですか?

伊藤さん:
真空パックにする機械を買って、店舗で袋詰を行いました。

 

──お店で提供しているメニューを、お店でレトルトにして出す分にはとくに許可などはいらなかった、ということでしょうか。

伊藤さん:
そうですね。でも、肉を生で提供するのはダメだと言われましたね。調理済みで、食べるときには温めるだけ、という状態にする必要がありました。キッチンカーでの販売時も、「お弁当」にしてはダメだと。現地のキッチンカーで調理を行うことはできず、盛り付けだけを行って提供するという形になりました。

 

──キッチンカーは調理場所ではなく、提供するだけの場所という位置づけなのですね。

伊藤さん:
はい。キッチンカーは、仕込み済みのメニューを温めて出すだけの「販売場所」ということですね。

 

「何らかの形で動いていたかった」
助成金も活用し、新たな販売形態を開拓

 

──既存のお店の経営に加えて、新たにテイクアウトという新たな形態も始められるとなると、準備の負担も大変だったのではないですか?

伊藤さん:
こんな(緊急事態の)ときしか新しいことはやらないだろうから、もうやってみよう、と思って…。

何らかの形で動いてないと、みんなへこんじゃうんですよね。毎日お店で(お客さんの入りが)ゼロ、ゼロ、ゼロ…という状態でただ(来店を)待っているよりかは、仕込み作業があるとか、何か売れるものがあるという状態でやっていかないと、という思いでした。

助成金も申請できるかぎり申請して、その範囲内で、レトルトパックを作るための真空パック機やキッチンカーで食品を温めるためのウォーマー、テイクアウト用の容器などの準備にあてました。

 

──テイクアウト販売をはじめるにあたって、どれくらいのコストがかかりましたか?

伊藤さん:
30万円くらいですかね。キッチンカーは自前で保持せずレンタルしているのですが、その部分のコストも助成金でまかなっています。

 

──テイクアウト営業の取組みを通じて、現在お店の営業にも反映されている部分はありますか?

伊藤さん:
テイクアウトで好評だったメニューを冷凍パックにして、通信販売することも検討しています。いま申請中の助成金が下りたら、品質を崩さず瞬時に食材を冷凍できる急速冷凍機を導入する予定です。テイクアウトだけではなく、その先も見据えて冷凍販売にも乗り出そうと考えています。

 

パイの奪い合いではなく、独自のニーズに応える


唐辛子と食材の風味を最大限に引き出したメニューが人気

 

──コロナ禍を機に「Uber Eats」や「出前館」など、ネット上でさまざまな店舗から出前を注文できるサービスが注目されていますが、こうした仕組みは活用していますか?

伊藤さん:
Uber Eatsなどはそれこそ日本に上陸したくらいの段階で声をかけてもらっていたのですが、いざ導入してみると、競合するお店が多すぎて…。(激辛料理は)ただでさえ分母が大きくないので、これは難しいなと…。むしろコロナ禍以前のほうが、こうしたサービスを経由した注文は多かったですね。

 

──お店同士でパイの取り合いになる、というリスクもあるのですね。

伊藤さん:
うちの場合は、激辛好きの方たちが口コミで「あそこのお店で(激辛料理がテイクアウトで)買えるよ」と広めてくれたのでよかったのですが…。みんながどこも一斉にランチを始めたら(パイの取り合いになって)意味がないなと思いました。ここらへん(表参道)はオフィス街なので、テレワークで出社する人も減ったことで、お客さん がいないんですよ。でも、住宅街などではテイクアウトは全然アリかもしれませんね。

 

──逆に「こんなニーズがあるのか」というような発見はありましたか?

伊藤さん:
家でも飲める「おつまみ」みたいなメニューが好評だったんです。どこでもお弁当を売っているなか米ではなく、つまみに対するニーズがあったんですね。テイクアウトというとみんなお弁当となるところですが、おつまみセットとか、鍋セットとか、お酒に合うメニューに梶を切っていたことがいい方向に働きました。

 

「何かを頑張ってます、というところにはお客さんも集まってくる」

 

──伊藤さんは、どんな思いからテイクアウト営業を始めたのですか?

伊藤さん:
(この状況下でも)「何か(新しい取り組みを)やっている」とお客さんに伝わるかな、と思ったんです。生命力があふれるというか。何かを頑張ってます、というところにはお客さんも集まってくるんですよ。話題づくりにもなるし。「全然ここらへん(に住んでいる人間)じゃないんだけど、行ってみようかな」って、ホントに買いに来てくれたり。

 

──それは嬉しいですね!!

伊藤さん:
利益が出ているかというと現在はトントンくらいなんですけども、助成金があるのでなんとかなっています 。話題作りとか、スタッフの人たちが元気になるとか、そういった意味でもテイクアウトを始めてよかったなと思いますね。

 

──お客さんの印象に深く残ることで、ファンになってくれる方を増やすことにもつながるのですね。

伊藤さん:
テイクアウトで提供するときにも、お店のメニューをそのまま出すのではなくて、「わざわざ取りに来ていただいて、ありがとうございます」という気持ち込めて、一品サービスしたり、「コロナ禍のなか大変ですが、頑張りましょう」といったお手紙を入れてお渡ししたりしているんです。

お店で(テイクアウトを)お渡ししているとき、お客さんはお店で過ごされているわけですから、気分を良くして帰っていただきたいなという気持ちですね。でも、実際にはそんなに時間がないから、1個持って帰っていただくとき、その中にどれくらい思いやりの気持ちや、やれることを詰められるかを考えています。

 

──いかに自分のお店を選んでもらうか、ということがこれまで以上にシビアになってきますよね。

伊藤さん:
町中を歩いていてふと目に留まるようなお弁当屋さんとも違いますし。うちの場合は建物の3階まで歩いてテイクアウトを取りに来ていただくというのを考えたら、差別化をしていかなければいけません。

だからといってやみくもに値段を下げたりすると、飲食店の人も辛いし、素材の品質も下がって美味しくなくなってしまうから、何か、そういう価格競争じゃないところにもう1回戻りませんかと思いますね。

 

──お店に足を運んででも食べたい、というお客さんの存在は大事ですね。

伊藤さん:
やっぱり、人が作ったものは温かいから、コンビニとかの弁当ではなくてわざわざテイクアウトをするわけだし…。食べ物としてはもちろん、気持ちがあると、お客さんは喜んでくれるんじゃないかな、と思いますね。

安いだけがお客さんの喜ぶことではないと思うんですよね。野菜の切り方ひとつとっても、「丁寧に切ってくれているな」と感じられると、私だったら「食べる人の気持ちを考えてこの大きさにしてくれたんだな」と思います。

 

──テイクアウトを提供するにあたって、とくに意識しているところはありますか?

伊藤さん:
盛り付けに関しても、「テイクアウトした後、運んでいる間に振動で崩れちゃうかも」ということを考えて、実際に容器を袋に入れた状態でぐるんぐるん回して「この状況でもキレイに見えるにはどう盛り付けたらいいか」を考えています。

お店ではスタッフがそのまま(料理を)運びますが、テイクアウトでは、お客さんが持って帰る際の振動も想定して、盛り付けがグチャっとならないように工夫しています。具体的には、お店では細かく刻んで出しているネギを、テイクアウトでは少し大きく斜め切りにしたり、輪切りにしていたものを斜めに切って、沈みにくくしたりしています。

 

──これからテイクアウトを始めようとしている飲食店のみなさんへひとこと、メッセージをお願いいたします。

伊藤さん:
何のために飲食店をやるんだろう、と考えたとき、「喜んでもらいたいから」「美味しいものを食べてもらいたいから」というところから始まると思うんですが、だんだんと「お客さんが来ないから」「安くしなきゃいけないから」と、自分たちが本当は出したくないものを出しているお店が多い気がしているんですよね。

ちょっと原点に戻りましょう、みたいな。「何のためにやってるのかな」というところに戻ると、結構、そういうところに戻ったほうが、お客さんがついてきてくれるかも知れないと思います。

 

【店舗情報】
『旨・辛・DINING 赤い壺』
住所:東京都港区北青山3-5-9 レイカーズ青山3階
アクセス:東京メトロ半蔵門線、千代田線、銀座線表参道駅A3出口3、4分
TEL: 03-3401-7883
公式サイト: https://akaitsubo.tokyo/
(営業時間)月~金 17:00-24:00、土 15:00-23:00、日 12:00-21:00(※12:00-15:00 ランチタイム)

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